冷却水系に潜むレジオネラ症感染のリスク
冷却水・冷凍機冷却塔を伴う開放循環冷却水系は、レジオネラ属菌の繁殖によりレジオネラ症(在郷軍人病)という感染症の発生源になることがあります。重篤な場合は、死亡例も報告されている恐ろしい感染症です。今回の水処理教室では、レジオネラ症の概要と、原因であるレジオネラ属菌が繁殖しやすい環境などについて解説します。
解説
レジオネラ症はレジオネラ属菌が原因で起きる感染症です。レジオネラ属菌は土壌や池・沼などに普通に存在する菌で、砂塵や補給水などから冷却水系に混入すると考えられています。冷却塔から、レジオネラ属菌を含んだミスト状の細かい水滴が飛散し、人が吸入することで感染します。レジオネラ症には以下の2種類があります。
・熱性疾患型の「ポンティアック熱」
インフルエンザに類似した症状で、発熱などが見られます。自然治癒型といわれており治療なしでも数日で回復することが多いです。
・肺炎型の「レジオネラ肺炎」
肺炎症状(咳、高熱、意識障害など)を呈し、劇症型という重度のものでは適切な治療が行われないと発病後1週間以内に死亡する可能性もあります。レジオネラ症は健康時には感染しない日和見感染症ともいわれ、高齢者や病気により免疫力が低下した時に感染するリスクが高くなります。そのため、病院や不特定多数の人が出入りするビルなどは特に注意して冷却塔の管理(清掃、設置場所の設定など)をする必要があります。
レジオネラ属菌が繁殖しやすい環境と対策
空調用冷却水系の水温は一般的に10℃~40℃です。一方、レジオネラ属菌の生育に最適な温度は36℃前後(増殖可能温度は25~43℃)で、5月~9月頃にかけては、冷却水の水温がレジオネラ属菌の繁殖に最適な温度に近づきます。また、レジオネラ属菌はアメーバに寄生して増殖することが知られており、冷却塔本体や配管壁面にスライムが発生した環境は、レジオネラ属菌の増殖を助長していると考えられています。繁殖に適した温度、アメーバなどの存在によって、冷却水系はレジオネラ属菌が増殖しやすい設備の一つとなっています。レジオネラ症の発生防止には設備の管理が非常に大切です。除菌剤の適用や清掃にはレジオネラ属菌の繁殖を抑える効果があります。「建築物における衛生的環境の確保に関する法律(通称:ビル衛生管理法)」では空調設備の病原体汚染を防止するための具体的な措置が定められており、冷却塔に関しては以下の事が義務付けられています。
・冷却塔に補給する水は水道水質基準を満たす水を使用する
・使用開始時及び使用期間中は1ヵ月以内ごとに1度定期的に点検し、必要があれば換水、清掃などを行う
・冷却塔、冷却水の配管の清掃を1年以内ごとに1回定期的に行う
用語解説
在郷軍人病
レジオネラ症の別名。1976年の米国フィラデルフィア市内のホテルに宿泊中の在郷軍人会参加者を中心に多数の重症肺炎患者が発生し、多くの死者を出しました。この時に日本でも在郷軍人病の名称で報道されました。
CHECK POINT!
- 除菌剤は、「抗レジオネラ用空調水処理剤協議会」に登録されているものと同成分の薬品を使用することを推奨します。
- 清掃作業においてはマスクや服装などの感染予防対策を行い安全に作業することが重要です。
解説者
栗田工業株式会社
梶原 瑛