嫌気性微生物の働きを利用した嫌気処理法
排水 生物処理「嫌気微生物の働きを利用した嫌気処理法」についてお話いたします。嫌気微生物を利用した排水処理のうち、メタンガス発生をともなう処理は省エネ、創エネ、省廃棄物などのメリットが得られ、高濃度排水から下水などの低濃度排水まで処理することができます。この嫌気性処理の工程について解説します。
解説
これまでに酸素が必要な好気性微生物だけでなく、酸素を必要としない嫌気性微生物も出てきましたが、嫌気性微生物を利用した排水処理をもう少し詳しく見てみましょう。ここではメタンガスの発生を伴う嫌気性処理法を紹介します。この嫌気性処理は、酸素が不要(省エネ)、メタンガスを回収(創エネ)、余剰汚泥減容(省廃棄物)など、優れた特徴をもち、BODが数万mg/Lの高濃度排水から下水などの低濃度排水まで処理することができます。排水の嫌気性処理による分解は以下の3つの工程に分けられます。
(1)有機物を酸生成反応によって単糖類や低級脂肪酸(有機酸)に分解
(2)それらを酢酸生成反応で酢酸に分解
(3)酢酸からメタン生成反応によってメタンガス、炭酸ガス、水に分解
有機物をメタンまで分解
(1)の酸生成反応に関与する細菌は酸生成菌と呼ばれ、溶存酸素のない環境下で働く通性嫌気性細菌です。排水中の糖類やたんぱく質を単糖類やアミノ酸、有機酸に液化・低分子化します。(2)の酢酸生成反応に寄与する酢酸生成菌は絶対嫌気性細菌で、単糖類やアミノ酸、有機酸を酢酸まで分解します。この酢酸から(3)のメタン生成反応によってメタンガスが生成されますが、メタン生成菌は絶対嫌気生細菌で、利用できるのは酢酸、水素など限られた物質のみで、限定された環境下で生育する増殖速度の遅い細菌です。嫌気性処理というとメタン反応のみと思われがちですが、メタンガス発生は最終段階であり、嫌気性処理の性能には、前工程としての酸生成、酢酸生成工程が大きく関与しています。好気性処理では、有機物分解時のエネルギーで菌体を生成しますが、メタン反応では菌体の代わりにメタンガスを生成するため、発生する汚泥量は少なくなり、嫌気性処理は汚泥減容に適した処理法となります。
用語解説
低級脂肪酸(有機酸)
脂肪酸とは、カルボキシル基を1個もつ鎖式化合物で、炭素数9以下の化合物を低級脂肪酸と呼びます。刺激臭と酸味をもち、水に可溶という特徴をもつ。
CHECK POINT!
- 嫌気性処理は、省エネ、創エネ、省廃棄物といった優れた特徴をもちます。
- 様々な菌の連携で有機物をメタンにまで分解します。
出典:よくわかる水処理技術(株式会社日本実業出版社発行)
解説者
栗田工業株式会社
佐藤禎一