純水給水ボイラ(中高圧ボイラ)における長期停止時のトラブル対策
ボイラ・スチーム純水給水ボイラ(中高圧ボイラ)を停止する際に注意することは?
ボイラを停止する際はトラブルを回避するために“保缶”を行うことが必要です
メンテナンスや生産調整などの理由で、長期間ボイラを停止させる場合には、トラブルを発生させないための適切な処理(=“保缶”)が必要です。
停止時はボイラの圧力が低下するため、そのままにしておくと酸素が缶内の水に溶け込み、錆びや腐食を発生させるリスクが高くなります。
また、運転再開時の円滑な立上がりにも影響しますので、対策はとても重要です。
本稿では純水を給水とする中高圧ボイラを長期停止する際の注意点を整理し、トラブル回避のための対策を紹介します。
不明な点や懸念点がある場合は、以下内容を元にお問い合わせ下さい。
適切な保缶処理方法を選択する
満水保缶
乾燥保缶(窒素加圧封入)
保缶方法 | 処理 | 注意点等 | |
---|---|---|---|
1 | 満水保缶 (アミン) |
・アミンを含むボイラ水処理薬品を高濃度添加します。 ・最長1年間の保存が可能です。 |
・炭素鋼・低合金鋼に適用可能です。 |
2 | 満水保缶 (ヒドラジン) |
・ヒドラジン濃度:100mg-N2H4/L 以上に維持します。 ・最長1年間の保存が可能です。 |
・ヒドラジンの消耗を考慮します。 |
3 | 乾燥保缶 (窒素加圧封入) |
・保有水を全量排水しながら窒素ガスで置換します。 ・50kPa以上で加圧封入します。 ・1年を越える保存が可能です。 |
・保缶期間中加圧が必要です。 |
〈満水保缶(アミン)〉
ボイラを停止する場合、腐食防止のために微アルカリ性の脱気した水を満たしてボイラを保存する方法です。
還元剤であるアミンを添加した水でボイラ缶内を満たすことで、腐食の原因となる水中の溶存酸素を除去し腐食を防止します。
普段使用しているボイラ水処理薬品を通常よりも高濃度に添加し、腐食を防ぎます。この方法も、最長1年間の保存が可能です。
注意点として、アミンは炭素鋼や低合金鋼でつくられたボイラには適用できますが、銅系の材料を用いたボイラの保缶には使用できません。
保缶終了後は保管水を全量排水し、缶内を水洗するが必要があります。
〈満水保缶(ヒドラジン)〉
還元剤としてヒドラジンを用いた満水保缶処理です。
処理の際、常時ヒドラジン濃度をアンモニア換算で100mg/L以上に維持することがポイントです。最長1年間の保存が可能です。
注意点として、保缶水中のヒドラジンは少しずつ消費されていくので、期間中の消耗を考慮し、保缶期間に見合う濃度のヒドラジンを添加することです。
保缶終了後は保管水を全量排水し、缶内を水洗するが必要があります。
また、ヒドラジンには高い酸素除去能力がありますが、発がん性の疑いがあると評価されています。取り扱いには十分な注意が必要です。
〈乾燥保缶(窒素加圧封入)〉
ボイラを空にした後、腐食防止のためにボイラ缶内に窒素ガスを封入してボイラを保存する方法です。
ボイラの停止後に保有水を全量排水しながら、缶内を窒素で置換します。窒素ガスは50kPa以上の加圧が保たれるよう封入します。
(1ヵ月程度であれば、常用水位のまま窒素を充填し、保管した事例もあります。)
注意点として、保缶期間中は加圧の必要があります。
純水装置を長期停止する際と再起動する際に注意することは?
ボイラに純水を供給するイオン交換樹脂式の純水装置を停止する際には手順があります
ボイラの長期停止に伴い、ボイラに純水を供給するイオン交換樹脂式の純水装置にも、停止時には適切な処理が必要になります。純水装置を再起動する際に、停止中にイオン交換樹脂から溶出した有機物が処理水中に含まれ、ボイラ水のpH変動や、発生蒸気へのニオイ移りが起きるリスクがあるためです。
適切な処理を手順に従って行うことが重要になります。
純水装置の保管方法
停止期間 | 実施事項 | |
---|---|---|
短期 | 1ヵ月以内 |
・週1回、2時間程度を目安に通水します。 |
長期 | 1ヵ月以上 |
《停止前》 ・樹脂を逆再生します。 ・混床型の場合は樹脂分離を行います。 《停止中》 ・樹脂塔を水封し、内圧上昇に備えます。 ・必要に応じてスライム対策を行います。 |
〈停止期間:短期〉
停止期間が1ヵ月程度の場合や凍結の心配が無い場合は、そのまま装置を停止します。停止している間、1週間に1回程度の通水を行います。
通水は、全ての樹脂塔の容積を足して2倍にした量の水を流します。一般的には、通常の流量で2時間程度を目安に通水します。
〈停止期間:長期〉
停止期間が1ヵ月を超えて停止する場合は、再稼働時の水質トラブルを起こさないよう、イオン交換樹脂の劣化を防ぐことが重要です。
《停止前》
対策の一例として、純水装置の停止前に、樹脂塔に塩化ナトリウム水溶液を通水しイオン交換樹脂を“逆再生”する方法があります。“逆再生”とは、カチオン交換樹脂をナトリウム型、アニオン交換樹脂を塩化物イオン型にする処理で、イオン交換樹脂の熱安定性が高まり、保管中の性能低下をおさえることができます。
また、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を同じ樹脂塔に充填している混床型やミックスベッドと呼ばれる樹脂塔の場合、イオン交換樹脂の比重差を利用して分離してから保管し、性能低下を抑制することをお勧めします。
《停止中》
停止期間が1ヵ月を超えて純水装置を停止している間は、樹脂塔の内壁ライニング(基材の表面に形成する被膜)などが、乾燥により剥離などを起こす可能性があるので、樹脂塔を水封し、湿潤を保つことをお勧めします。水封する際は、停止中の気温上昇により内圧が高まり、サイドガラスなどの破損を起こすことがあるため、適切に圧力を逃がすことが必要です。樹脂層内でスライムの発生が懸念される場合、塩化ナトリウム水溶液で樹脂層を浸漬するケースもあります。塩化ナトリウム水溶液で満たす前に、窒素などの不活性ガスで水抜きする方法も有効です。
純水装置再起動時の手順
STEP | 項目 | 実施事項 |
---|---|---|
1 | 樹脂塔内滞留水の排出 |
滞留した水を一旦、すべて排出します。 |
2 | 樹脂洗浄 |
水張→浸漬3時間→水抜きを3回、もしくは各塔20BV以上、通水します。 |
3 | イオン交換樹脂の再生 |
4~6倍量再生します。 |
4 | 通水洗浄 |
各塔20BV以上、通水します。 |
※BV、Bed Volume:1BVはイオン交換樹脂と同体積の水量
純水装置を再起動する際のトラブルを回避するために、上記の手順に従って処理を進めます。
STEP1:樹脂塔内に滞留した水を一旦、すべて排出します。
STEP2:イオン交換樹脂を洗浄します。樹脂塔内を水張し、3時間程度浸漬した後、水抜きを行います。これを3回程度、繰り返す方法が一般的です。
STEP3:次にイオン交換樹脂を再生します。4~6倍量再生して、イオン交換樹脂をH型・OH型に完全に再生します。混床型の純水装置の場合は、再生後にイオン交換樹脂を混合します。
STEP4:最後に、各塔20BV以上の水を流して、洗浄します。
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