低圧ボイラにおける停止時のトラブル対策
ボイラ・スチーム低圧ボイラを停止する際に注意することは?
ボイラを停止する際はトラブルを回避するために“保缶”を行うことが必要です
ボイラは、蒸気供給用および発電用をはじめ、産業用の動力源や熱源、ビルや工場における空調の暖房や吸収式冷凍機の熱源として広く用いられています。
何らかの事情でボイラが緊急停止して、復旧までに時間を要したり、操業を長期間休止する場合には、ボイラを停止させる際に、トラブルを回避するための適切な処理(=“保缶”)が必要です。停止時はボイラの圧力が低下するため、そのままにしておくと酸素が缶内の水に溶け込み、錆びや腐食を発生させるリスクが高くなります。
また、運転再開時の円滑な立上がりにも影響しますので、対策はとても重要です。
本稿では低圧ボイラを例にとり、長期間停止する際の注意点を整理し、トラブルを回避するための対策を紹介します。
不明な点や懸念点がある場合は、以下内容を元にお問い合わせ下さい。
参考:主なボイラの種類と比較
| 種類 | 基本構造 | 最大 圧力 |
特徴 | 留意点 |
|---|---|---|---|---|
| 炉筒煙管ボイラ | 円筒形の炉筒と煙管の2か所で伝熱する |
2MPa | ・保有水量が大きいため負荷急増時 にも圧力低下を起こしにくい ・蒸気純度を維持しやすい |
・ボイラ技師免許が必要 ・公的機関の検査が必要 ・起動に時間がかかる |
| 水管ボイラ | 上下の各ドラムを多数の水管でつないだ構造 |
18MPa | ・発電用の中高圧ボイラへ適用できる ・石炭、ゴミ、木質バイオマス等の 固体燃料への対応が可能 |
・ボイラ技師免許が必要 ・公的機関の検査が必要 ・起動に時間がかかる |
| 小型貫流ボイラ | 水管と管寄せで構成される缶体と汽水分離器を有す |
1MPa | ・ボイラ技師免許が不要 ・公的機関の検査が不要 ・取り扱いが容易 ・エネルギー効率が高い ・短時間で起動 ・負荷に応じて、複数台利用可能 |
・水質管理が重要 ・蒸気純度が低下しやすい ・水質変動が大きく、腐食や スケール障害がおきやすい |
詳しくはこちら > 基礎学習動画「ボイラの種類」、基礎学習動画「各ボイラの比較」
操業低下時におけるボイラ水処理の注意点
小型貫流ボイラは、停止やスタンバイ状態が長くなると腐食トラブルが発生することがあります。 ボイラを多缶設置している場合、稼働のローテーションプログラムを見直し、停止・スタンバイの期間をできるだけ短くし、腐食が起きやすい状態を回避することが重要です。
〈小型貫流ボイラを複数設置している場合:停止・スタンバイの期間を短くする〉
〇停止やスタンバイ状態が長くなると腐食トラブルが発生してしまう
〇ローテーションプログラムを見直し、停止・スタンバイ状態が長くならないようにする
(一部のボイラを保缶処理をして休止させ、運転台数を減らすことも有効です)
〈全てのボイラに共通:停止前の適切な保缶処理〉
〇給水元バルブ、主蒸気バルブが「閉栓」しているか確認する
〇保缶期間に合わせた適切な保缶処理を選択する
〇満水保缶の際は適切な水質基準(薬剤投入量)を順守する
腐食トラブルを防ぐ
万一、ボイラをそのまま停止したり、ボイラ内部の水を排水しただけで停止してしまうと、ボイラ内部に残った水のpHが低下し、酸素も溶け込むことで液相部や残液部で腐食が発生してしまいます。写真は、pHの異なる純水に鉄系材料を6ヵ月保存したときの様子です。pHが11より低くなると、材料に腐食が発生しています。
〈ボイラ内部に残った水のpHが低下する主な要因〉
〇ボイラ運転中にボイラ水を低いpHで運転する
〇ボイラ停止中に外気が混入し空気中の二酸化炭素が溶解する
〇逆止弁の不調により蒸気凝縮水が逆流する
腐食が発生してしまうと、ボイラの寿命を短くするだけではなく、立ち上げの際に、フラッシング洗浄や、基礎投入・新缶処理と呼ばれる薬品処理が必要となり、立上げが遅れコストも発生します。このような事態を回避するため、ボイラを停止する際は適切な保缶処理を行う必要があります。

適切な保缶処理方法を選択する
ボイラの停止期間や作業性を考慮し、適切な方法を選択することが重要です。
〈一般的な4つの保缶処理〉
(1)常用水位:稼働時と同じボイラ水を常用水位まで入れたまま、ボイラ内部の気相部を窒素で置換する方法
(2)満水保缶:ボイラ内部を薬剤を添加した保缶水で満たす方法
(3)乾燥保缶:ボイラ水を全量排水した後、ボイラ内部を乾燥させた状態にする方法
(4)窒素封入:ボイラ水を全量排水した後、ボイラ内部に窒素を封入する方法

〈停止期間と推奨する保缶処理方法(低圧ボイラの保缶処理を選定する一例)〉
| 保缶処理の方法 | ||||
|---|---|---|---|---|
| ボイラ停止期間 | 常用水位 | 満水保缶 | 乾燥保缶 | 窒素封入 |
| 毎日、毎週停止 (1週間未満) |
◎ |
〇 |
× |
〇 |
| 1週間以上 |
△ |
◎ |
〇 |
〇 |
| 1ヵ月以上 |
× |
◎ |
〇 |
◎ |
| ~6ヵ月未満 |
× |
〇 |
◎ |
◎ |
(推奨 ◎>〇>△>× 非推奨)
停止期間が1週間未満と短く、停止を頻繁に繰り返す状況であれば、常用水位のまま気相部を窒素ガスで置換する方法が、手間も少なくお勧めです。
その際、ボイラ水のpHを管理値上限とする必要があります。
1週間以上、ボイラを停止する場合は、満水保缶が適しています。
普段使用しているボイラ水処理薬品を高濃度添加した水や、ヒドラジンを添加した水を、ボイラ内部に充填する方法です。
ボイラ薬品によって保缶できる期間や方法が異なるため、薬品メーカーへの確認が必要です。
1ヵ月以上、ボイラを停止する場合は、ボイラ水を全量排水する、乾燥保缶、窒素封入保缶が適しています。
水を抜いたボイラ内部に乾燥空気や、不活性ガスである窒素を充填する方法です。
乾燥保缶を行う際の操作方法は、ボイラの取扱書に準じて実施してください。
停止期間が長くなるほど、より腐食が発生しにくい保缶処理を選択します。状況に応じて、適切な保缶処理を選定ください。
〈窒素封入方法を用いる際の注意点〉
常用水位のままボイラ内部の気相部を窒素ガスで置換する場合や、ボイラ水を全量排水した後に、窒素ガスを充填する際の注意点を補足します。
《窒素封入》
窒素ガスは真空破壊弁、または空気取り入れ弁の電磁弁に窒素ガス配管を接続し、加圧供給します。
窒素ボンベや工場の窒素ガスラインから、圧力を調整しながら充填します。
《ポイント》
図のようにガス配管を接続する際に逆止弁や取り合い分岐配管(分岐が必要な場合)を設けます。
ボイラ停止後の残圧があるうちに、窒素で置換・封入します。
窒素ガス圧力は20~50kPa以上とします。

長期保缶したボイラを再度立ち上げる際の注意点
ここでは満水保管と乾燥保管を例に注意点を説明します。
満水保缶から立ち上げる場合
満水保缶から立ち上げる場合、再起動の手順は以下のとおりです。再起動時には、ボイラ水処理薬品が適正量、注入されているか確認をお願いします。
|
STEP |
項目 |
実施事項 |
|---|---|---|
| 1 |
水圧試験 |
給水バルブを開け、蒸気バルブを閉じ、給水ポンプを稼動して、ボイラの水圧試験を実施します。 |
| 2 |
全ブロー フラッシング |
保缶水を全量排水した後、フラッシングしてボイラ内部を洗浄します。 常用水位まで給水しては全量排水を、排水がきれいになるまで繰り返します。 |
| 3 |
基礎投入・昇圧 |
給水しながら基礎投入を実施し、常用水位に達したらボイラを点火します。 しばらく蒸気を大気に排出してから、圧力を上げていきます。 |
| 4 |
送気開始 |
昇圧後、蒸気バルブを徐々に開けて、送気を開始します。 |
乾燥保缶から立ち上げる場合
乾燥保缶から立ち上げる場合、再起動の手順は以下のとおりです。ボイラ内部に入る際は、酸素濃度をチェックしたうえ、二人以上で作業を行うなど、安全管理に十分注意してください。
|
STEP |
項目 |
実施事項 |
|---|---|---|
| 1 |
乾燥剤の回収 |
ボイラ内部の乾燥剤を取り除いてから、マンホール(メンテナンスホール)を閉じます。 気化性防錆材を使用した場合は、内部を水で洗浄してからマンホール(メンテナンスホール)を閉じます。 |
| 2 |
水圧試験 新缶処理 |
給水ポンプで満水にした後、水圧試験を実施します。 試験後、常用水位にまで水を減らしてから、新缶処理剤を投入します。 |
| 3 |
全ブロー フラッシング |
保缶水を全量排水した後、フラッシングしてボイラ内部を洗浄します。 常用水位まで給水しては全量排水を、排水がきれいになるまで繰り返します。 |
| 4 |
基礎投入・昇圧 |
給水しながら基礎投入を実施し、常用水位に達したらボイラを点火します。 しばらく蒸気を大気に排出してから、圧力を上げていきます。 |
| 5 |
送気開始 |
昇圧後、蒸気バルブを徐々に開けて、送気を開始します。 |
その他要注意事項(給水タンク、蒸気配管・ドレン配管・給水配管、軟水器)
ボイラを再起動する場合の要注意事項は以下のとおりです。
〈給水タンク〉
〇給水タンクに水をいれたまま長期間放置すると、スライムが繁殖することがあります。
〇スライムがボイラに持ち込まれると、カビ臭や缶水pHを低下させる可能性があります。
〇スライムによって給水ストレーナーが閉塞し、給水量の低下によってボイラが全停止するリスクもあります。
〇再起動前に全ブローとフラッシングすることをお勧めします。
〈蒸気配管・ドレン水配管・給水配管〉
〇スライムが管内に持ち込まれると、カビ臭やストレーナーの閉塞を招く可能性があります。
〇再起動時には配管フラッシングや、ドレン抜きブローの実施をお勧めします。
〈軟水器〉
〇使用前に一度、逆洗、再生して、汚れを排出させてください。
〇採水前に硬度指示薬で、軟水となっているか水質を確認してから使用してください。
〇物流配送が遅れやすい状況では、軟水器再生用のボイラソルトや、ボイラ水処理薬品の在庫確認をお願いします。
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円筒形の炉筒と煙管の
上下の各ドラムを
水管と管寄せで構成される